仕事で迷ったとき、
半歩下がるための10の問い

仕事の迷いは、当事者でいる間はほとんど解けません。

「自分が」「自分の評価が」「自分の責任で」と、主語が全部「自分」に貼りついている状態だと、目の前の判断は、いつのまにか何倍も重く見えてきます。半歩だけうしろに下がって、「あの人、いま何に引っかかってるんだろう」くらいの距離で自分を眺める——それだけで、迷いの輪郭はずいぶん変わります。

ここに並べる10の問いは、わたくしがIT業界で4,000回ほど人前で話してきた中で、相手が仕事の迷いの当事者性から半歩降りた瞬間に立ち会えた問いだけを残したものです。変えるための問いではなく、半歩下がるための問いです。

イーサン・クロスの『Chatter』という本に、頭の中の独り言から距離を取るための技法として 「自分のことを自分の名前で呼ぶ」 という方法が紹介されています。「わたしはどうしたらいい?」を「○○はどうしたらいい?」に置き換えるだけで、脳は同じ問題を別人の問題として扱い始める、という話です。不思議な感じがするかもしれませんが、これはちゃんと心理学の研究で効果が確かめられている技法です。

以下、「〇〇」と書いてある場所には、ご自身の名前(下の名前でもニックネームでも、家の中で呼ばれる呼び名でも)を入れて読んでみてください。 全部の問いには入っていません。10問のうち4問だけです。残りは普通の二人称で構いません。三人称が機能しやすいのは、自己評価が絡んだり、上司や同僚の目を気にしたりしている問いだけだと考えていて、そこにだけ絞っています。

一回読んでみて、不思議な感じが残るようでしたら、その問いだけ「〇〇」を「自分」に戻して読み直してみてください。それでも構いません。


問い1

〇〇(自分の名前)は今、何に引っかかっているんだろう?

最初の問いは、いきなり三人称で置きます。「自分は何に引っかかっているか」と問うと、答えに自己弁護や自己批判が混ざります。「〇〇は何に引っかかっているか」と問うと、答えはもう少し平らな観察に近づきます。引っかかっているもの自体は変わらない。ただ、見ている場所が、当事者席から少しだけ離れます。

ある外資系企業のマネージャー研修で、「自分のことを名前で呼んでみてください」とお伝えしたら、ベテランの方ほど最初は照れていらっしゃいました。それでも一度試してみると、「あ、ちょっと他人事みたいに見えますね」と笑われた方が何人もいらっしゃいました。距離化というのは、子ども騙しのようでいて、案外、大人にこそ効きます。

問い2

この仕事の、何が怖いんだろう?

迷いの正体は、ほとんどの場合「面倒」ではなくて「怖い」です。失敗が怖い、評価が下がるのが怖い、誰かをがっかりさせるのが怖い、自分の能力の上限が見えるのが怖い。怖さに名前がつくと、迷いは決断に変わりやすくなります。

問い3

誰の評価を気にして動こうとしている?

これは、答えがすぐに出ない方が健全だと思っています。上司なのか、同僚なのか、業界の中の誰かなのか、家族なのか、過去の自分なのか。評価者の顔がはっきりすると、その人の声と自分の声を分けて聞けるようになります。


ここまで読まれて、もしかしたら「三人称で呼ぶの、やっぱり気恥ずかしい」と感じられるかもしれません。

それでいいと思います。気恥ずかしいということは、普段その距離で自分を見たことがない、という証拠です。新しい筋肉を使うときは、最初はぎこちないものです。続ける必要もありません。1問だけ試してみて、合えば残す、合わなければ通常運転に戻す。それくらいの気軽さで構いません。


問い4

〇〇が本当に解きたい問題は、今手をつけている問題と同じ?

仕事で動きが鈍るときは、たいてい 解きたい問題と手をつけている問題がズレています。 本当は事業の方向性が気になっているのに、目の前の細かい資料を直し続けていたり、本当はチーム関係の修復を望んでいるのに、自分のタスクの効率化ばかりやっていたり。〇〇を主語にすると、このズレが見えやすくなります。

問い5

1週間休んだら、この仕事は止まる? それとも、案外回る?

自分が抜けたら全部止まると思っているとき、実際にはそうでもないことがほとんどです。逆もまた真で、自分が抜けたら本当に止まるとしたら、それはそれで、別の問いを立てるべきタイミング、ということでもあります。自分の不在を一度想像できると、目の前の仕事の重さが正確に測れます。

問い6

この決断を「自分で選んだ」と言える。

これは問いではなく、置いておく一文です。「言える?」と問うと、つい「言える」と答えてしまう。「言える。」と置いておくと、ふっと、言えない部分が見えてきたりします。誰かに押し付けられた決断を、自分で選んだことにして引き受けている部分はないか。一度だけ、確認です。

接客業のリーダー研修で、ある店長さんが「異動を自分で選んだことになっているけれど、本当は断れなかっただけかもしれない」と話されたことがあります。選んだことにしている決断と、本当に選んだ決断は、肩の重さがまったく違います。 自分で選んだ部分だけは、堂々と背負っていい。そうでない部分は、別の言葉で抱え直したほうが、たぶん長く持ちます。

問い7

〇〇が尊敬する人なら、この場面でどこに線を引くだろう?

ここでまた三人称に戻ります。「自分が尊敬する人なら」と問うと、答えに「でも自分はそこまでできない」が混ざります。「〇〇が尊敬する人なら」と問うと、答えは少しだけ素直に出ます。線の引き方には、その人の生き方が表れます。借りられる線は借りていい。

問い8

今の仕事のどこに、自分の指紋を残したい?

仕事の迷いは、「やるべき」の量で動いているときに濃くなります。「残したい」という方向から見直すと、量は減って、輪郭がはっきりします。残せる指紋は1つでも、2つでも、ゼロでも構いません。ゼロだったとしたら、それはそれで、いま立っている場所についての貴重な情報です。

問い9

疲れているのは、量のせい? それとも向いていない作業のせい?

両方ということもあります。でも、たいていの場合、どちらかが主役です。量が主役なら、休めば戻る。向いていなさが主役なら、休んでも戻りません。疲れの種類を間違えると、休み方を間違えます。

問い10

〇〇の中で、本当はもう重くなっているものがある。

最後の問いも三人称で、提示形で置いておきます。「やめたら?」とは聞きません。「〇〇の中で重くなっているものはある?」とも聞きません。「ある。」と置く。それだけです。重くなっているものに気づいておくこと自体に、意味があります。気づいたあと、どうするかは、また別の日の問いです。


10問、並べました。三人称が入ったのは1・4・7・10の4問だけです。気恥ずかしかったら、その4問は飛ばしても、自分に戻して読んでも構いません。

仕事の迷いは、なくなりません。なくなる必要もありません。ただ、当事者の熱から半歩だけ降りる練習をしておくと、迷いの中にいる時間そのものが、少しだけ過ごしやすくなる——それくらいの効果を、わたくしはこの問いに期待しています。


気になった問いだけ、手帳の端に書き留めてみてください。


もし今、しんどいときは

1人で抱えなくていい。専門家に話すことは弱さではなく、選択肢の1つです。


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